不妊治療がつらいのはなぜ?心が追い詰められる7つの理由と心を守る方法

「不妊治療がつらくて、もう頑張れない」
「治療を続けたい気持ちはあるけれど、心がついていかない」
「周りの妊娠報告を聞くたびに落ち込み、そんな自分まで嫌になる」
不妊治療を続けるなかで、このような気持ちになることは珍しくありません。
不妊治療は、通院や投薬などの身体的な負担だけでなく、結果を予測できない不安、仕事やお金の問題、パートナーとの温度差、周囲に理解してもらいにくい孤独など、さまざまな負担が重なる治療です。
つらいと感じるのは、心が弱いからでも、努力が足りないからでもありません。
この記事では、臨床心理士・公認心理師の視点から、不妊治療で心が追い詰められやすい理由と、つらいときに自分の心を守る方法について解説します。
不妊治療がつらいのは、負担が一つではないから
不妊治療のつらさは、一つの原因だけで生じるものではありません。
- 検査や処置による身体的負担
- 結果を予測できない不安
- 妊娠判定を待つ時間
- 陰性や流産による喪失感
- 年齢に対する焦り
- 仕事との両立
- 治療費への不安
- パートナーとの考え方の違い
- 周囲の妊娠・出産報告
- 誰にも話せない孤独
こうした負担がいくつも重なることで、普段なら対処できることにも余裕がなくなり、心が追い詰められていきます。
WHOが2025年に公表した不妊症のガイドラインでも、不妊症が抑うつ、不安、社会的孤立などにつながる可能性があることを踏まえ、必要に応じた心理社会的支援の重要性が示されています。
不妊治療で心が追い詰められる7つの理由
1.努力と結果が結びつかない
不妊治療では、決められた時間に薬を使い、通院を続け、生活にも気を配ったとしても、必ず妊娠できるとは限りません。
採卵しても卵子が得られない、受精しない、胚盤胞にならない、移植しても着床しないといったことが起こる可能性があります。
努力しているのに結果を自分でコントロールできない状況が続くと、
「何をしても無駄なのではないか」
「次もうまくいかないかもしれない」
という無力感が生まれやすくなります。
これは本人の考え方が後ろ向きだからではなく、結果を予測しにくい状況に長く置かれたときに起こり得る自然な反応です。
2.期待と落胆を繰り返す
不妊治療では、卵胞の確認、採卵、受精結果、胚の発育、移植、妊娠判定など、期待と不安が大きくなる場面が何度も訪れます。
「今度こそ」と期待したあとに、思うような結果が得られなかったときの落差は、とても大きなものです。
欧州生殖医学会の心理社会的ケアに関するガイドラインでも、治療中の心理的負担は一定ではなく、採卵、移植、妊娠判定までの待機期間などで変化することが示されています。
陰性判定や治療の中止、流産は、周囲からは見えにくくても、本人にとっては大きな喪失体験になることがあります。
十分に悲しむ時間がないまま次の周期へ進むことで、気持ちが追いつかなくなる人も少なくありません。
3.身体的な負担が続く
不妊治療では、採血、内診、自己注射、採卵、胚移植など、さまざまな検査や処置が行われます。
使用する薬によっては、頭痛、吐き気、腹部の張り、倦怠感などが現れることもあります。身体の状態や薬への反応には個人差があり、気分の変化を感じる場合もあります。
身体がつらい状態では、気持ちを立て直すための余力も少なくなります。
症状が強い場合や、日常生活に支障が出ている場合は、我慢せず主治医に相談してください。
4.年齢や時間への焦りがある
不妊治療では、年齢が治療方針や妊娠の可能性に関係するため、「少しでも早く進まなければ」という焦りが生まれやすくなります。
休みたいと思っても、
「休んでいる間に年齢が上がってしまう」
「今やめたら後悔するかもしれない」
という不安から、立ち止まれないこともあります。
そのため、不妊治療は「続けるのもつらいけれど、休むのも怖い」という、逃げ場のない状態になりやすいのです。
治療を休むか迷う場合は、年齢や身体の状態によって医学的な見通しが異なるため、まず主治医に「どの程度の期間なら治療計画への影響が少ないか」を確認するとよいでしょう。
5.仕事と治療の調整が難しい
不妊治療では、月経周期や卵胞の発育に合わせて、急に受診日が決まることがあります。
そのため、
「何度も休みをお願いするのが申し訳ない」
「治療のことを職場に知られたくない」
「大切な仕事を任せてもらえなくなるのではないか」
と悩む人もいます。
厚生労働省の令和5年度調査では、不妊治療について「仕事との両立ができなかった・できない」と回答した人は26.1%でした。不妊治療と仕事の両立は、本人の努力だけでは解決しにくい問題です。
6.パートナーとの温度差が生まれる
同じように子どもを望んでいても、不妊治療の受け止め方やつらさの表れ方は人によって異なります。
一方は「話を聞いてほしい」と思っていても、もう一方は「解決方法を考えよう」とすることがあります。
また、身体的な治療を多く受けている側が、
「どうして私ばかりが頑張っているのだろう」
と感じる一方で、パートナーも「何をすればよいかわからない」と戸惑っていることがあります。
相手が平気そうに見えても、つらくないとは限りません。ただし、つらさを分かち合えない状態が続くと、孤独や不満が強くなってしまいます。
7.周囲の妊娠や出産が刺激になる
友人や同僚の妊娠・出産報告を聞いて、心が苦しくなることがあります。
お祝いしたい気持ちと、
「どうして私は妊娠できないのだろう」
「取り残されたように感じる」
という悲しみが、同時に存在することもあります。
素直に喜べないからといって、その人を大切に思っていないわけではありません。自分の痛みに触れる出来事から、心が自分を守ろうとしている可能性があります。
妊娠報告がつらい時期には、SNSをミュートする、集まりへの参加を見送るなど、一時的に距離を取ってもかまいません。
心の余裕が少なくなっているサイン
次のような状態が続いている場合は、セルフケアだけで何とかしようとせず、専門家への相談を検討してください。
- 気分の落ち込みや涙が続く
- 眠れない、または眠りすぎる
- 食欲が大きく減った、または増えた
- 治療以外のことを楽しめない
- 仕事や家事に集中できない
- パートナーとの衝突が増えている
- 妊娠や治療のことが頭から離れない
- 人に会うことを避けるようになった
- 自分には価値がないと感じる
- 消えてしまいたいと思うことがある
これらの状態だけで、うつ病や適応障害と判断できるわけではありません。しかし、日常生活に支障が出ている場合は、心療内科、精神科、かかりつけ医、心理士などに相談することが大切です。
「消えてしまいたい」「自分を傷つけそう」と感じる場合は、一人にならず、身近な人や医療機関、地域の緊急相談窓口へ早めにつながってください。
不妊治療がつらいときに心を守る方法
1.無理に前向きになろうとしない
つらいときに、
「前向きに考えなければ」
「ストレスをためると妊娠できない」
と思うと、つらい感情を抱いている自分まで責めてしまいます。
不安、怒り、悲しみ、嫉妬、悔しさは、妊娠を望み、治療に向き合ってきたからこそ生まれる感情です。
まずは「今はつらい」「これ以上頑張れないと感じている」と認めることから始めてください。
ストレスがあるから妊娠できない、と単純に結びつけることはできません。ストレスケアは、妊娠率を上げるための義務ではなく、あなた自身の生活と心を守るために行うものです。
2.自分で決められることと、決められないことを分ける
妊娠の結果そのものを、自分の努力だけで決めることはできません。
一方で、次のようなことは自分で調整できます。
- 治療について調べる時間
- SNSを見る範囲
- 誰に治療のことを話すか
- 通院後の予定
- パートナーにしてほしいこと
- 次の治療前に確認したいこと
- カウンセリングを利用するか
- 主治医と休止や治療方針を相談するか
コントロールできない結果を考え続けるよりも、自分で選べる小さなことに目を向けると、失われた主体性を取り戻しやすくなります。
3.治療について考えない時間をつくる
不妊治療中は、生活のすべてが治療中心になりやすくなります。
一日のうち短い時間でも、
- 好きな音楽を聴く
- 散歩をする
- カフェで過ごす
- ドラマや本を楽しむ
- 趣味に取り組む
- 妊活と関係のない人と話す
といった時間を持ってみましょう。
楽しむことは、治療を真剣に考えていないという意味ではありません。治療以外の自分を保つために必要な時間です。
4.情報収集に区切りをつける
不安が強くなるほど、治療法、妊娠率、サプリメント、成功体験などを検索し続けてしまうことがあります。
しかし、SNSや個人の体験談は、その人の年齢、検査結果、治療歴などによって状況が異なります。自分と比べるほど、不安や焦りが強くなることもあります。
「検索は一日20分まで」「夜は治療情報を見ない」など、情報に触れる時間を決める方法があります。
医学的な疑問はSNSだけで判断せず、主治医や医療機関へ確認しましょう。
5.パートナーに望むことを具体的に伝える
「もっと寄り添ってほしい」だけでは、相手が何をすればよいかわからない場合があります。
例えば、
- 「今日は解決策ではなく、話を聞いてほしい」
- 「診察結果を一緒に確認してほしい」
- 「採卵の日は家事を代わってほしい」
- 「生理が来た日は、そっとしておいてほしい」
- 「今週は治療の話をしない時間をつくりたい」
というように、具体的に伝えてみましょう。
週に一度、10~15分だけ治療について話す時間を決める方法もあります。話す時間を区切ることで、日常のすべてが治療の話になることを防ぎやすくなります。
6.続ける・休む・見直す選択肢を持つ
不妊治療は、「続ける」か「やめる」かの二択ではありません。
- 今の治療を続ける
- 一周期だけ休む
- 検査結果や治療方針を再確認する
- セカンドオピニオンを受ける
- 治療の段階を見直す
- 期限や費用について話し合う
- 治療を終えることを検討する
など、さまざまな選択肢があります。
どの選択が正しいかは、医学的な見通しだけで決まるものではありません。身体、心、仕事、経済面、夫婦の生活、今後大切にしたいことを含めて考える必要があります。
すぐに結論を出せないときは、「今は決めない」という選択をしてもかまいません。
7.一人で抱えず、専門的な支援を利用する
不妊治療の相談先は、医師だけではありません。
- 通院している医療機関の看護師や相談担当者
- 生殖心理に詳しい臨床心理士・公認心理師
- 自治体の性と健康の相談センター
- 不妊・不育症の相談窓口
- 職場の産業医や相談窓口
- 心療内科や精神科
などを利用できます。
カウンセリングの目的は、無理に治療を続けられるようにすることではありません。
治療を続けたい気持ちと休みたい気持ち、パートナーとの温度差、仕事との両立、治療の終わりへの迷いなどを整理し、自分にとって納得できる選択を考えるための場です。
仕事との両立がつらいときに確認したいこと
不妊治療のための休暇制度は、すべての職場に設けられているわけではありません。しかし、不妊治療専用の休暇がなくても、次のような制度を利用できる場合があります。
- 時間単位または半日単位の有給休暇
- フレックスタイム
- 時差出勤
- 短時間勤務
- テレワーク
- 多目的休暇
- 休職制度
治療内容を職場の全員に伝える必要はありません。必要な範囲を考え、上司や人事担当者だけに相談する方法もあります。
厚生労働省は、治療の状況や職場で必要な配慮を主治医と勤務先の間で共有するための「不妊治療連絡カード」を公開しています。
仕事と不妊治療の両立について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
〇「妊活と仕事、両立できない…」限界を感じたときに考えたい3つの選択肢
不妊治療のつらさについてよくある質問
Q.ストレスがあると妊娠できないのでしょうか?
ストレスがあるから妊娠できない、と単純に判断することはできません。
不妊治療中に不安やストレスを感じるのは自然なことです。「リラックスしなければ妊娠できない」と自分を追い込む必要はありません。
心のケアは、妊娠の結果をコントロールするためではなく、治療中の生活と健康を守るために行うものです。
Q.友人の妊娠を喜べない自分は性格が悪いのでしょうか?
性格が悪いわけではありません。
相手を祝福したい気持ちと、自分の状況がつらい気持ちは同時に存在します。無理に明るく振る舞わず、つらい時期は距離を取ってもかまいません。
Q.不妊治療をやめたいと思うのは、諦めなのでしょうか?
「やめたい」という気持ちは、治療による負担が大きくなっていることを知らせるサインかもしれません。
すぐに続けるか、やめるかを決めなくてもかまいません。まずは、身体、心、仕事、費用、夫婦関係のうち、何が最もつらいのかを整理してみましょう。
〇不妊治療がつらくてやめたいときの考え方
【記事への内部リンク】
まとめ|不妊治療がつらいのは、あなたが弱いからではありません
不妊治療では、身体的な負担だけでなく、結果を予測できない不安、期待と落胆の繰り返し、年齢への焦り、仕事や費用、パートナーとの温度差、周囲からの孤立などが重なります。
つらいと感じるのは、あなたの心が弱いからではありません。
無理に前向きになる必要も、すぐに答えを出す必要もありません。
治療を続けること、少し休むこと、方針を見直すこと、治療を終えること。どの選択を考えるときにも、あなた自身の心と身体、生活が大切にされる必要があります。
一人で抱えきれないと感じたときは、安心して話せる人や専門家の力を借りてください。
不妊治療のつらさを一人で抱えている方へ
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カウンセリングでは、治療の継続を勧めたり、特定の結論へ誘導したりするのではなく、ご自身の気持ちや大切にしたいことを整理し、納得できる選択を考えるお手伝いをします。
初回相談後に、必ず継続していただく必要はありません。事前アンケートの内容を確認したうえで、面談の可否と予約方法をご案内します。
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