不妊治療と仕事を両立するには?続けるための工夫5選
「不妊治療を始めたら、想像していた以上に通院が多かった」
「急な早退や休みが重なり、職場に申し訳なく感じる」
「治療と仕事のどちらも大切なのに、両立することに疲れてしまった」
不妊治療では、月経周期や卵胞の育ち方、ホルモン値などに合わせて診察日が決まります。そのため、前もって予定を立てにくく、急な通院や勤務変更が必要になることも少なくありません。
厚生労働省の調査では、不妊治療を経験した人のうち、55.3%が仕事と治療を両立していた一方、10.9%は両立できずに退職し、7.4%は雇用形態を変更していました。
両立を難しいと感じる主な理由としては、「通院回数が多い」「精神的な負担が大きい」「通院にかかる時間が読めない」などが挙げられています。
不妊治療と仕事の両立は、本人の努力だけで解決できる問題ではありません。治療の特徴に合わせて仕事を調整し、職場やパートナーの協力を得ながら、負担を分散することが大切です。
この記事では、臨床心理士・公認心理師の視点から、不妊治療と仕事を両立するための具体的な工夫を5つ紹介します。

不妊治療と仕事の両立が難しい3つの理由
1.通院日が直前まで決まらない
不妊治療では、月経周期や卵巣の反応を確認しながら、次回の診察日や採卵日などが決まります。
「来週のどこかで通院が必要になる」とわかっていても、具体的な日程は数日前まで確定しない場合があります。
厚生労働省の資料では、通院日数の目安として次のように示されています。
| 治療内容 | 1周期当たりの通院目安 |
|---|---|
| 一般不妊治療 | 1回1~2時間程度の通院が2~6日 |
| 体外受精・顕微授精 | 1回1~3時間程度の通院が4~10日 |
| 採卵など | 半日~1日程度の通院が1~2日 |
実際の通院回数や所要時間は、治療方法、身体の反応、医療機関の待ち時間などによって異なります。
仕事の予定を早く確定しなければならない人ほど、この「見通しの立ちにくさ」が大きな負担になります。
2.身体的・精神的な負担が重なる
不妊治療では、ホルモン剤などの影響によって、頭痛、腹痛、吐き気、眠気、だるさなどが現れることがあります。
さらに、治療結果への不安、妊娠判定を待つ時間、周囲からの何気ない言葉などが重なり、気持ちが大きく揺れることもあります。
いつもどおり仕事をしているように見えても、心の中では治療のことで頭がいっぱいになっていることもあるでしょう。
身体的な負担と精神的な負担を抱えながら、仕事の成果まで維持しようとすれば、疲れ切ってしまうのは当然です。
3.職場にどこまで伝えるか迷う
不妊治療は非常にプライベートな問題です。
厚生労働省の調査では、不妊治療について「職場に一切伝えていない、または伝えない予定」と回答した人は47.1%でした。
治療を伝えれば勤務上の配慮を相談しやすくなる一方で、周囲に知られることや、特別扱いされることへの不安もあります。
職場に伝えるかどうかに、すべての人に当てはまる正解はありません。職場の環境や治療段階、必要な配慮によって判断することが大切です。
不妊治療と仕事を両立するための工夫5選
1.まずは職場の制度を確認する
不妊治療を職場に詳しく伝える前に、利用できる制度がないか確認してみましょう。
不妊治療専用の休暇制度がなくても、次のような制度を利用できる可能性があります。
- 半日・時間単位の有給休暇
- フレックスタイム制度
- 時差出勤
- 短時間勤務
- テレワーク・在宅勤務
- 通院休暇や多目的休暇
- 失効した有給休暇の積立制度
- 休職制度
- 所定外労働や出張を制限する制度
就業規則や社内ポータルを確認するほか、人事・労務担当者に「定期的な通院に使える制度はありますか」と尋ねる方法もあります。
厚生労働省の調査では、不妊治療に利用できる柔軟な働き方のうち、最も多く導入されていたのは半日・時間単位の休暇制度でした。
なお、不妊治療に特化した休暇制度の有無や、休暇中の賃金の扱いなどは会社によって異なります。まずは自分の勤務先の制度を確認しましょう。
2.必要な人に、必要な範囲だけ伝える
不妊治療をしていることを、職場全体に伝える必要はありません。
上司、人事担当者、チームリーダーなど、勤務調整に必要な人だけに共有する方法があります。
治療内容や不妊の原因まで詳しく説明する必要もありません。仕事上必要な情報に絞って伝えると、心理的な負担を抑えられます。
例えば、次のように伝えられます。
現在、定期的な通院が必要な治療を受けています。身体の状態によって診察日が直前に決まることがあり、月に数回、遅刻や早退、休暇をお願いする可能性があります。業務への影響をできる限り少なくしたいので、勤務方法についてご相談させていただけないでしょうか。
不妊治療であることを伝えられる場合は、次のように共有してもよいでしょう。
現在、不妊治療を受けています。治療の性質上、通院日が数日前に決まることがあります。お伝えする範囲は、上司と人事担当者までにしていただきたいと考えています。
大切なのは、「治療を理解してほしい」とだけ伝えるのではなく、必要な配慮を具体的に相談することです。
- 月に何回程度の通院が予想されるか
- 遅刻・早退・休暇の可能性
- 残業や出張の調整が必要か
- 在宅勤務を希望する日
- 誰まで情報を共有してよいか
職場への説明が難しい場合は、厚生労働省の「不妊治療連絡カード」を利用できます。主治医などに治療予定や必要な配慮を記入してもらい、勤務先へ提出するための様式です。
3.治療予定を「確定・予測・予備」に分ける
不妊治療の予定を、すべて確定したスケジュールとして管理しようとすると苦しくなります。
そこで、予定を次の3段階に分けて考えます。
確定している予定
すでに日程が決まっている診察、検査、説明などです。わかった時点で、早めに休暇や勤務変更を申請します。
予測できる予定
採卵や移植など、時期はおおよそわかるものの、まだ日にちが確定していない予定です。
「この週は通院の可能性がある」と考え、重要な会議、出張、締め切りをできるだけ避けます。
予備として空けておく予定
体調不良や急な受診に備える時間です。
可能であれば、治療周期中は予定を詰め込みすぎず、仕事を前倒しで進めたり、担当業務をほかの人が確認できる状態にしたりしておきます。
業務の進捗、保存場所、緊急時の対応方法を簡単に共有しておくと、急に休むことになった場合の不安を減らせます。
ただし、すべての急な通院を予測することはできません。「完璧に迷惑をかけないようにしよう」と考えすぎないことも大切です。
4.パートナーと治療以外の負担も分担する
不妊治療では、通院や投薬の負担が一方に偏りやすくなります。
とくに女性は身体的な治療を受ける機会が多いため、仕事、家事、治療の管理をすべて担うと、心身の負担が大きくなります。
パートナーには、通院への付き添いだけでなく、次のようなことも分担してもらいましょう。
- 治療予定を共有カレンダーに入力する
- 医療費や必要書類を管理する
- クリニックの説明を一緒に確認する
- 採卵日などに勤務を調整する
- 治療後の家事や食事を担当する
- 職場への連絡方法を一緒に考える
- 「話を聞いてほしい日」と「そっとしてほしい日」を共有する
「手伝ってほしい」とだけ伝えると、パートナーも何をすればよいかわからないことがあります。
「採卵の翌日は夕食をお願いしたい」「今はアドバイスより話を聞いてほしい」など、具体的に伝えることがポイントです。
不妊治療と仕事の両立は、通院する本人だけの課題ではありません。パートナーも勤務を調整し、治療や生活を一緒に支えることが重要です。
5.心身がつらい日は無理をしない
治療結果が思うようにならなかった日や、妊娠判定を受けた直後に、普段どおり働くことが難しくなる場合があります。
そのようなときに、「仕事に集中できない自分は弱い」「もっと頑張らなければ」と責める必要はありません。
不妊治療では、希望と落胆を繰り返しながら、先の見えない状況に耐え続けることがあります。つらくなるのは、気持ちが弱いからではなく、それだけ大きな負担がかかっているためです。
負担が大きいときは、次のような対応を考えてみてください。
- 重要な予定を入れない日を作る
- 半日だけ休む
- 在宅勤務に変更する
- SNSや妊娠に関する情報から距離を置く
- 信頼できる人に気持ちを話す
- 治療を休む選択について医師と相談する
- 心理士などの専門家に相談する
休むことは、治療や仕事を諦めることではありません。
治療を続けるために一時的に仕事の負担を減らすことも、仕事を続けるために治療のペースを見直すことも、自分を守るための大切な判断です。
職場には不妊治療を伝えたほうがいい?
不妊治療を職場に伝えるかどうかは、次のように考えると整理しやすくなります。
| 伝え方 | 向いている状況 | 注意点 |
|---|---|---|
| 不妊治療であることを伝える | 専用制度や継続的な配慮を利用したい | 共有してよい範囲を明確にする |
| 「定期的な治療」とだけ伝える | 詳細は伏せながら勤務調整したい | 希望する配慮を具体的に伝える |
| 治療について伝えない | 有休などで対応でき、業務への影響が少ない | 急な通院が続くと説明が難しくなる場合がある |
どの方法を選んでも間違いではありません。
一度伝えた情報を完全に戻すことは難しいため、職場の雰囲気や信頼できる相手かどうかを見ながら、段階的に共有する方法もあります。
伝える場合は、必ず「誰まで共有してよいか」を確認しておきましょう。
不妊治療と仕事を両立できないと感じたときは
両立が限界に近づくと、「もう退職するしかない」と考えてしまうことがあります。
しかし、退職を決める前に、次の選択肢がないか確認してみてください。
- 有給休暇を時間単位・半日単位で取得する
- 一時的に業務量を減らす
- 残業や出張を調整する
- 在宅勤務や時差出勤を利用する
- 部署異動や担当変更を相談する
- 短時間勤務や雇用形態の変更を検討する
- 休職して治療に集中する
- 治療を一周期休むことを医師と相談する
退職には、収入だけでなく、社会保険、今後のキャリア、治療費への影響もあります。つらい治療結果が出た直後など、気持ちが大きく揺れているときに急いで決断せず、少し時間を置いて考えることも大切です。
どの選択が正しいかではなく、「今の自分が何を最も守りたいのか」「どの負担なら調整できるのか」を整理してみましょう。
不妊治療と仕事の両立についてよくある質問
不妊治療を職場に必ず伝える必要はありますか?
必ず伝えなければならないわけではありません。
ただし、不妊治療専用の休暇や勤務上の配慮を申請する際には、治療を受けていることを人事担当者などへ伝える必要がある場合があります。詳しい治療内容をどこまで伝える必要があるかは、勤務先に確認しましょう。
休む理由はどこまで説明すればよいですか?
通常の有給休暇であれば、詳しい理由を職場全体へ説明する必要はありません。
一方、継続的な勤務調整を希望する場合は、「定期的な通院が必要」「日程が直前に決まる可能性がある」など、仕事に影響する部分を伝えると相談しやすくなります。
不妊治療連絡カードとは何ですか?
厚生労働省が作成している、治療を受ける人と勤務先をつなぐための様式です。
主治医などに治療の予定時期や必要な配慮を記入してもらい、職場の休暇制度や両立支援制度を申請するときに利用できます。使用は任意です。
不妊治療のための休暇制度はすべての会社にありますか?
制度の有無や内容は会社によって異なります。
不妊治療専用の制度がなくても、時間単位の有給休暇、フレックスタイム、時差出勤、テレワーク、短時間勤務などを利用できる場合があります。就業規則や社内制度を確認してください。
パートナーも仕事を調整したほうがよいですか?
不妊の原因は女性だけにあるものではなく、不妊治療はカップルで取り組むものです。
精液検査や精子提出、治療方針の説明など、パートナーの通院や参加が必要になる場合もあります。身体的な治療を受ける側だけに仕事の調整を任せず、パートナーも休暇取得や家事分担を検討することが大切です。
まとめ|両立は「一人で完璧にこなすこと」ではない
不妊治療と仕事を両立するためには、本人が無理を重ねるのではなく、利用できる制度や周囲の協力を活用して、負担を分散することが大切です。
今回紹介した工夫は、次の5つです。
- 職場の制度を確認する
- 必要な人に、必要な範囲だけ伝える
- 治療予定を「確定・予測・予備」に分ける
- パートナーと治療以外の負担も分担する
- 心身がつらい日は無理をしない
すべてを一度に実行する必要はありません。
「就業規則だけ確認してみる」「次の周期についてパートナーと話す」など、今できることから始めてみてください。
不妊治療を続けること、休むこと、仕事を優先すること、働き方を変えること。どれか一つだけが正解ではありません。
自分が大切にしたいものと、今抱えている負担を整理しながら、納得できる方法を選んでいくことが大切です。
当オフィスでは、臨床心理士・公認心理師による初回オンライン相談を30分無料で実施しています。
不妊治療と仕事の両立、職場への伝え方、治療を続けるかどうかの迷いなどについてもご相談いただけます。
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